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「愛に満ちた一言を~「おかげさま」の気持ちを育てたい」やまとしぐさ伝承学師範 辻中公

私の友人Aさんの話です。
Aさんには妹がいて、その妹さんには息子B君がいました。大学進学を決めたB君は、大学の近くに下宿しました。
信号が青に変わったのを見てB君は横断歩道を渡り始めました。そこに大きなトラックが突っ込んできました。
Aさんに、妹さんから事故の連絡が届きました。
「うちの子が事故に遭った。意識がないみたいなの」「顔の右半分が潰れていて、意識が戻らないかもしれない。どうしよう」
Aさんは妹さんの話を聞きながらいろんなことを考えました。
「甥は人生これからなのに・・・・・・下宿なんてさせていなければ・・・・・・」
さらに加害者への怒りもこみ上げました。「そもそもなんでトラックは赤信号なのに突っ込んできたんだ」
B君は幸運にも一命を取り留め、数日後Aさんと妹さんが見舞いに来ていた病室に、加害者が警察の人とやって来ました。
その加害者の態度が横柄に思えたAさんは怒りを抑えられなくなり、思わず「殴りかかろうか」くらいの気持ちになりました。
その時Aさんの妹さんが言いました。
「息子の命を助けてくださってありがとうございました」
「事故を起こしてあなたもつらかったでしょう。でもすぐに救急車を呼んでくれたおかげで、息子は一命を取り留めることができました」
その瞬間、それまでふんぞり返っていた加害者が床に崩れ落ち、声を上げて泣き始めました。そして何度も何度も、「申し訳ありませんでした」と謝ったそうです。
するとB君も言いました。
「この事故は自分にとって必要な経験だったと思う。いただいた命をこれから大切に使っていきます。」
Aさんの妹さんの「ありがとうございました」の一言が、その場の雰囲気を一変させたんですね。
妹さんの「ありがとうございました」の言葉は、本当にB君の命が助かったことの喜びから出たのだと思いました。
そしてそれを聞いたB君も、「僕は必要とされている」と感じて、そう言ったのだと思います。
このエピソードは、「たった一言が人生を変える」ということを教えてくれていると思いました。
もし私たちが同じ状況に出会ったら、どんな言葉を掛けることができるでしょう? とっさに愛に満ちた言葉を紡ぐことができるでしょうか?
(日本講演新聞2017年3月6月号、6月5日号より)
日本講演新聞を読むたびに心が震える記事に出合います。咄嗟の時に愛のある言葉がはけるかと問われたら、・・・・・。愛のある言葉は人の心を動かす力があるようです。批判したり非難する言葉は、相手の心を閉ざすようです。愛と感謝のある生き方を心掛けていきます。
国民教育の師父森信三先生の教えに「最善観」という考え方があります。わが身に降りかかる一切のことは絶対最善であり、必要なことであるというのです。絶対肯定・絶対必然という思いを持ち、嬉しいことからも悲しいことからも学びを得ながら成長したいと思います。
できるだけ、美しい透明感のあるこころをもって生きて行こうと思います。