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安岡正篤先生に学ぶ
『味』

 甘味というものは苦味の中からにじみ出てきた
ものが一番良い。同様に、人生の辛酸をめてそ
こからにじみ出てきた旨味・渋味をもった人間が
最も味わい深い。
 あいつは甘い、という言葉がある。苦労をして
いない人に使う言葉である。
 子供は甘いものがすきだ。私も子供の頃、お茶
やビールが旨いとは思わなかった。あんな苦いも
のを飲むなあ〜と子供心に感じていた。苦味や渋
味を味わうには歳を重ねなければならない。正確
に言えば、歳を重ねるだけではダメである。四十
〜五十になっても、甘い人生を歩いている人を見
ることがある。一方、若くても素晴しい人間味あ
ふれる人がいる。どうも人間味というのは歳には
関係ないようである。
 お茶でも第一煎は甘みを味わい、第二煎はカフ
ェインの苦味を味わい、第三煎は渋味を味わう、
というように、精神が歳とともに成長していかな
ければならない。
 そのためには、笑うときには笑い、悲しいとき
には泣き、苦しいときには苦しむことだ。いつで
も、いまここ、を力の限り生きていくことではな
いか。楽なほうに身を寄せていれば、一時はそれ
で済む。が、必ず試練がやってくる。仏陀はこの
世を、四苦八苦といった。避けては通れない四苦
八苦の人生。
 甘味、苦味、渋味のある人間になりたいものだ。
楽しみも悲しみも苦しみも経験した人だけが、人
の憂いが胸にしみて分かり、優しくなれる。
 いつまで生きているかは分からないが、晩年に
は淡を味わって生きたい。淡々と……。